マルティン・ヴァスマー ヴァイサーブルグンダー
Martin Waβmer Weisser Burgunder 2020
参考小売価格:3500円
産地:バーデン
品種: ヴァイサーブルグンダー(ピノブラン)
購入元:ヘレンベルガーホーフ
インポーター:ヘレンベルガーホーフ
9月末からドイツワインを集中的に飲んできましたが、このヴァイサーブルグンダーでひと区切りにしたいと思います。最後を飾るのはブルグンダー兄弟の中でもあまり見かけないピノブラン。アルザス産を先に飲んでいましたが、どうにも特徴を掴み切れずにいたので、今回はその手応えを確かめる一本です。
このワインの産地は、ドイツのトスカーナとも称されるバーデン最南部のマークグレーフラーラント。フランス、スイス、ドイツの3国が文化を交える土地で、西と南をライン川に囲まれた温暖な気候に恵まれています。平地にはグートエーデル(シャスラー)種の軽快な白が広く植えられ、かつては「旨安ワインの産地」として知られてきました。ブルゴーニュでいえばマコンのような立ち位置です。
しかし20世紀後半、この土地の評価を一変させた生産者が現れました。それがマルティン・ヴァスマー醸造所です。創業者マルティン・ヴァスマー氏は、もともと料理人を志していましたが、21歳のときに故郷バートクロツィンゲンに戻り、家業の畑を引き継ぎました。じゃがいもやトウモロコシを育てるかたわら、新たにホワイトアスパラガスの栽培も始め、地元のワインと合わせて味わううちに「もっとおいしいものができるのでは」と感じたといいます。その違和感を原動力に、1997年、37歳で醸造所を設立。翌年にはブルゴーニュのシャンボール・ミュジニィで研修し、アミオ・セルヴェルで技術を磨きました。
南ドイツらしい素朴な人柄ながら、良いワインを造りたいという情熱は途切れることなく、3ヘクタールから始まった畑は今や38ヘクタールに拡大。黒い森の南西斜面に点在する石灰岩と片麻岩の複雑な土壌を活かし、冷気と日照のバランスが取れた土地でブドウを育てています。さらにフーバー醸造所の元醸造長シュテファン・ベック氏が加わったことで品質は一段と向上。ゴーミヨ誌などで四つ星以上を獲得し、2018年には『Vinum』誌で「最もコストパフォーマンスに優れたピノ・ノワール」部門の優勝に輝きました。
そんな背景を知ったうえでこのヴァイサーブルグンダーを飲むと、ワインに込められた情熱と土地の個性が一層立体的に感じられます。色調は淡いのに粘性が高く、アルコール度数は13%とやや高め。それでいて、アルコールが浮かずに溶け込むのが見事です。ドイツワインらしい繊細さを保ちながら、芯の強さを感じさせます。
香りは熟した柑橘と蜂蜜、そこにミネラルが重なり、高級シャブリのような印象を受けます。口に含むとまず酸が立ち、やがて苦みと辛みが混ざり合い、余韻では品の良い甘みへと滑らかに移り変わります。体感としては5000円以上のシャブリと肩を並べる完成度で、しかもこの珍しい品種であることを考えると、飲む楽しさを含めて価格以上の満足感があります。
この一本でドイツワインシリーズはいったん区切りとなりますが、振り返ってみるとどれも印象深く、記憶に残る体験ばかりでした。ドイツワインの奥深さと繊細さをあらためて感じる、最高の締めくくりです。
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