甲州 ヴェルディーニョ
Ch. Mars Koshu Verdinho
参考小売価格:1800円
産地:山梨
品種: 甲州
購入元:ローカルスーパー
製造:マルスワイン
安いワインを中心に毎日1本以上飲んでいた頃から距離を置いて、半年が経過した。気がつけば味覚が高品質ワインの方向へと最適化され、手頃なワインでは満足できない体に変わってしまった。その影響で消費量は目に見えて落ち着き、11月は9本という控えめな数字になった。3日で1本のペースだが、ボジョレーヌーボー以来10日以上ワインを開けない期間も生まれた。以前のように毎晩酔いと共に過ごす感覚が薄れ、夜の時間の質が静かに変わり始めている。
消費量の変化には明確な理由がある。ワインエキスパートコンクールで優勝するという目標を掲げてから、闇雲に多くを飲むのではなく、特定の産地に深く潜っていくスタイルへ移行した。ロワール、アルザス、ドイツと進め、今月からは日本ワインに焦点を合わせる。学びの密度を上げるには、散漫に種類を増やすより、1つの文脈に腰を据える方がよほど良い。
日本ワインを集中的に飲むと決めた背景には、ほかにも事情がある。サブスクの日本ワインが手つかずで溜まり、ブラックフライデーで手に入れたグランポレール、近所のスーパーで救済した割引ワインなどが積み重なり、気がつけばストックは16本。3日で1本のペースで動かすとしても、2ヶ月は軽く必要になる。日本ワイン縛りは想定より長引きそうだが、安いワインを無反省に消費していた頃と比べれば、学習効率は格段に高い。飲む行為そのものが、次のステップへ向かうための蓄積になっている。
最初に抜栓したのは、スーパーで救済した3割引ワイン。定価は税込1800円ほどで、購入価格は約1200円。ラベルにはヴェルディーニョとあり、爽やかな緑を意味するという。ポルトガルのヴィーニョヴェルデへの目配せだろうと推測したが、その読みは外れていなかった。発酵由来のガスがわずかに溶け込み、口当たりの軽やかさに微発泡の気配が潜んでいる。
色調は薄いイエロー。緑を意識すれば黄緑に寄って見える。香りは柑橘とハーブ。平坦なアタックのあと、甲州特有の鋭い酸が輪郭を締め直し、日本ワインらしい清涼感を思い出させる。久しぶりの甲州の感触に、素朴なときめきがよみがえった。これこそ、日本が積み重ねてきたワインの味だと再確認する瞬間でもあった。
ヨーロッパワインとは方向性がまるで異なる。料理との関係性も違い、日本ワインの酸は和食のために存在しているように感じる。酢の物や刺身との相性は特に良く、日本酒にはない張りのある酸が、料理の輪郭をもう一段引き上げる。ヨーロッパワインの構造では届かない領域で、日本ワインは静かに仕事をしている。






