グランポレール「安曇野池田 ソーヴィニヨン・ブラン 2020」
—“畑のポテンシャル”と“ボトルの現実”のズレを検証する
参考小売価格:6800円
産地:長野
品種: ソーヴィニヨン・ブラン
購入元:アマゾン
製造元:サッポロビール
グランポレールの検証シリーズは、今回でいったん区切りにする。締めに選んだのは「安曇野池田 ソーヴィニヨン・ブラン 2020」。定価はおおむね6,000円クラスの、いわゆる“軽い気持ちで開けにくい”価格帯だ。
ただ私はこれを、Amazonブラックフライデーの福袋(安曇野池田シラーとの2本セット)で6,000円相当で入手した。日本ワインが実質半額で落ちてくる機会は多くない。だからこそ「安く買えた」という事実は嬉しい反面、同時に“バックヴィンテージを安く放出する理由”も疑うべきだと思っている。安く買えた瞬間から、こちらが引き受けているリスクも増えている。
「安曇野池田」シリーズは何者か:単なる産地名ではなく“設計された畑”である
安曇野池田は、グランポレールが単に長野でぶどうを買っている、という話ではない。長野県北安曇郡池田町に2009年開園(約12ha)の自社畑「安曇野池田ヴィンヤード」を基盤に据えたシリーズで、栽培適地を探し当てて“風・標高・斜度・土壌”まで条件を寄せにいったプロジェクトだと位置づけられている。
この畑の説明で繰り返し出てくるキーワードは「風」。西に北アルプス、東に中山山地があり風向きが南北に偏る。夕方に北寄りの風が入り夜温が下がり、日較差が大きくなる。さらに午後には平坦地から東山への吹き上がりの風も加わり、年間を通じて風通しが良い。病害(湿度で出やすいベト病など)が抑えられやすい、という現場の実感も語られている。
標高も、古里ぶどう園(約340m)から池田(約560〜610m)へ上げている。斜度も平地から傾斜地へ振り、よりぶどう栽培向きの条件に寄せた、という整理になっている。
土壌面では、礫が多く水はけが良いこと、排水の課題には暗渠工事(排水パイプ敷設)まで打って改善したことも記録されている。
加えて、サッポロ公式メディア側では「標高560〜630m」「降雨量が少なく夜温が下がりやすい」「水はけの良い土壌」といった条件をまとめて、“フランス系品種の産地として最高の条件”という言い方をしている。
このシリーズが(少なくとも思想としては)「日本ワインを産地から設計し直す」試みに近いことが見えてくる。
“シングルヴィンヤード”という看板の意味
グランポレールは「シングルヴィンヤードシリーズ」を掲げ、探し求めた地の個性を前に出す構成を取っている。北アルプス由来の清涼な風と土壌の恵みを前提条件として語るのも、その設計の一部だ。
今回のソーヴィニヨン・ブラン 2020も、公式のヴィンテージ情報が細かい。2020年は成熟期(8月)の雨が少なく日照に恵まれ、良質なぶどうが収穫できたという前提から入り、ステンレスタンク熟成・生産本数(3,851本)・収穫日まで開示されている。
さらに「収穫を分けて(タイミング違いのぶどうを)ブレンドし、酸・成熟感・香りのバランスを追求した」と明記されている。
要は、“青さ一辺倒”でも“完熟だらけ”でもなく、バランス設計を狙った年として語られている。
テイスティング:外観と香り(典型的SBの文法から外れる)
開栓してまず感じたのは、ボトルの作りの良さだ。キャップシールやコルクの質感に「熟成も視野に入れている価格帯のワインだな」という説得力がある。ソーヴィニヨン・ブランは一般に早飲みとされるが、6,000円クラスなら“多少は寝かせられるはず”という期待が生まれる。
外観はしっかり濃い黄金色。温度は冷蔵庫から出して1時間ほど置いたが、冬場で思ったほど上がらない。それでも香りは距離を取っても来る。
第一印象は、甘いみかん、蜂蜜、そこにレモンやグレープフルーツ系の柑橘。だが、私が持っているニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランや、ロワールのサンセール/プイィ・フュメのような“分かりやすい型”とは違う。奥に清涼感はあるので品種の気配は残るが、ブラインドで香りだけ取って「ソーヴィニヨン・ブラン」と即答するのは難しいタイプだと感じた。
ここは、畑や造りの思想と、実際のボトルが示す情報が噛み合わない最初のポイントだった。
味わい:酸はあるのに果実がいない(劣化というより“枯れ”)
口に含むと、酸はしっかりしている。しかし果実の要素が弱く、どこか“枯れ”の方向に寄っている。私はこの段階で「傷んでいる」というより「進み方が違う」印象を持った。果実の輪郭が薄いまま、酸だけが残っている。
ボトルの説明としてよく引用される文言には「白桃やツゲの新芽」「豊かな酸味」「柑橘の果皮の苦味」といった要素が挙げられる。
方向性は理解できるし、前回飲んだ別ワインより“まだちゃんとしている”とも感じた。だが、現時点のこのボトルは、そこに書かれた“果実の芯”が抜けている。
ここで重要なのは、「畑が悪い」と結論するには情報が足りない点だ。安曇野池田ヴィンヤード自体は、風通し・標高・水はけ・日較差という“良いぶどうに寄る条件”を揃えている。
それでもボトルがこうなるなら、疑うべき変数は別にある。保管(流通段階の温度・光)、ボトル差、あるいは2020という年における“熟成耐性の限界点”などだ。
ソーヴィニヨン・ブランは、熟成で面白くなるタイプもある一方、香りのピークが比較的早く落ちやすいスタイルも多い。今回のように「酸は残るが果実が消える」現象は、熟成の成功というより、ピークアウトや保管影響の可能性を想像させる。
「半額で買える日本ワイン」は、こちらの学習コスト込みで成立する
6,000円の日本ワインが実質3,000円で手に入る。これは“得”であると同時に、“得の理由がある”とも言える。バックヴィンテージの放出は、在庫整理や販促として普通に起きるが、ソーヴィニヨン・ブランのように香りで価値が立つ品種では、ピークの窓を外すと評価が一気に落ちる。
今回のボトルは、安曇野池田という畑の設計思想(風・標高・水はけ・日較差)と、2020年の造りの狙い(収穫分け→ブレンドで酸・成熟感・香りのバランスを取る)を知ったうえでも、グラスの中身がその“狙いどおりの表情”をしていなかった。
だからこそ学びが残る。価格で飛びついたときに、どの変数を疑い、どこまでを“畑の評価”として扱ってよいのか。その線引きを訓練する回になった。
日本ワインはまだ数本残っているので、飲み切ったら2月からは別の地域に移って、同じように「設計思想」と「ボトルの現実」のズレを取りにいく。






