インポーターとは輸入業者のことで、文字通り海外のワインを現地から日本に運んでくる業者の事です。
いろんな意味で「良質ワイン」を輸入するのもインポーターの手腕ですし、消費者が満足できないようなバランス(味や価格帯)の悪いワインを日本に持ってくるのもインポーターです。
個人的な意見としては、「生産者は自分の造りたいものを造る」または「自分の造れるものを造る」ので、どんな完成度や値段であっても「選定するインポーターが良質なワインを取捨選択できていれば「残念ワイン」は日本に入ってこないと思っています。
残念ワインと言っても様々な要素があるので、一括りにするには無理があります。しかし、あえて言い切ってしまえば「購入した人が満足できなかったワイン」と言えるのではないでしょうか。
すなわち、優良インポーターさえ知っていれば「残念ワイン」を低確率はぐっと低くなります(ゼロではない)。
以前紹介した書籍「ブルゴーニュと日本をつないだサムライ」でも触れられていましたが、大事なのは、「生産者との良質な関係をいかに築いているか」。そう言った意味で、※輸入したくないワインでも、ロットの問題や、造り手の救済が必要な場合は、無理しなくてはならない場面もあるでしょう。
※例:赤はいいのに白はイマイチ。明らかに出来が悪い年なのに、毎年決まった数を同じ価格で発注※
この本は、著者が情熱と信念を持ったインポーター10社にインタビューし、その個性を取りまとめた本です。
著者が何社取材したうちの10社選出なのかは書かれていなかったので、明確な選出基準は不明です。しかし、その文面からでも伝わる各会社の情熱は、著者との癒着や、企業案件的に登場している雰囲気はありませんでした。
では、本書で登場した優良インポーター10社を紹介しますね。
株式会社ヴァイアンドカンパニー
取り扱ってる国:オセアニア(オーストラリア/ニュージーランド)
ネットで買える場所:タカムラワインハウス
URL:https://www.vaiandcompany.com/
世界で一番空気が綺麗、島の20%が世界遺産のタスマニアワインを中心として取り扱っているインポーター。
紹介されているトップバッターにも関わらず、私自身は触れたことのないインポーターだったので半信半疑でしたが、ホームページを見る限りでは何か伝わるものはあります。
創業者の唄淳二さんは、大学卒業後、バックパッカーとしてオーストラリアのワイナリーで飛び込みでお手伝いをさせてもらい、恩返しとして輸入し始めたのが創業のキッカケ。
ポリシーは、口に入れるものは偽らない。造り手の顔が見えるがポイント、喋っていて面白い人や共感できる人に絞って取引しているそうです。
株式会社ラシーヌ
取り扱ってる国:大体のワイン生産地
ネットで買える場所:ワインホリック
多くのインポーターがブランドの囲い込みと定着を狙っているが、保守的な戦略を嫌いラシーヌは新人発掘に力を入れている。
今でこそ有名になったジェロームプレヴォーやユリスコランをファーストビンテージ前から通い詰め、世界で初めて買った実績があり、自社畑のみで生産する小規模生産者のを好んで取り扱う。
そして注目すべき点は、輸送の全工程にこだわり抜いた「ラシーヌ適温の輪」
完全なリーファー輸送を宣言しているところでも実態がわかれば分かるほど抜け落ちているところがあり、全工程に置いて目付していないと平気で粗悪な状況になるのがワインの輸送。
現地で割増料金を払ってリーファートラックを用意しても、向こうでは平気で普通のトラックでやってきたり、電源を切っていたりしている。そこの監視にかけるコストをそのまま原価にオンできるわけでないらしいですが、生きているのようなワインのコンディションを届けたい一心で徹底した輸送管理を怠らないそうです。
ヘレンベルガー・ホーフ株式会社
取り扱ってる国:ドイツ
ネットで買える場所:ワイングロッサリー
URL:http://www.herrenberger-hof.co.jp/
本書で主に語られていたのは、社長のドイツ武者修行奮闘記。
そんな経験から、他のインポーターと違い少数のワイナリーに取り扱いを絞り、深掘りして、生産者とは世代を超えて深いつながりでつながっていそうです。
一昔前に消費者が抱いていた甘口粗悪ドイツワインの印象を変えることにも苦労し、繊細で飲み疲れしない素肌美人ワインを普及。じわっと滲み入るようないつまでも飲んでいたいドイツワインの良さを伝えられています。
株式会社ヴァンパッシオン
取り扱ってる国:フランス/チリ
ネットで買える場所:ワイングロッサリー
URL:https://www.vinpassionco.com/
ブルゴーニュワインを主な取り扱いとし、「100%リーファー(ラシーヌと同じで輸送の全工程でリーファー使用)」「100%蔵出し(第三者を経由せずに製造元から直接手に渡ったものしか扱わない)」をポリシーとしています。
社長である川上さんが、以前所属していた商社のワイン部門が他社へ譲渡。その会社が、川上さんのポリシーとは相反する考えだったため独立。資本金30万円からスタートし、今では年商18億円を超える独立系インポーターでは大手ともいえる存在までに成長。
人に笑顔と感動をもてなすワインのみを取りしてるそうなので、ハズレワインなんて絶対になさそうですね。笑
布袋ワインズ株式会社
取り扱ってる国:アメリカ/チリ
URL:http://www.hoteiwines.com/
当時はマイナーな品種ジンファンデルのみの取り扱いからスタート。コンセプトは現地で気軽に楽しまれているワインをリーズナブルな価格でお届け。個性と品質、コストパフォーマンスのバランスに優れたリアルなワインを目指しているそうです。
現地では一軒一軒訪問し、実際に造り手に遭い、ワイナリーを見て悪くないと判断しても必ず持ち帰って決める。その場で決断しないのは、雰囲気に負け、あとで失敗する可能性があるから。
持ち帰り後は有能な6名のテイスターがブラインドテイスティングし、民主的に選定する。民主的に決めるがゆえに個々の好みが分かれるが、それゆえに多様なニーズをカバー。
輸送に関しては今まで紹介されている業者とは違う考え方で、抑えるべきコストは抑える主義。徹底した温度測定により、真夏以外はドライコンテナでも20度を超えることのない輸送ルートを確立。
そのためか、他の業者と違い比較的買いやすい価格帯も多く見られ、当研究所でも今回知った中では一番の注目度。
株式会社フィネス
取り扱ってる国:フランス
ネットで買える場所:ホリックワイン(楽天)
URL:http://www.finesse-wine.co.jp/
品質に拘りたいがために並行輸入に手を出さず、中間業社を通さない直接購入にこだわり。全て目の届く範囲に限定して輸入。
低価格のワインでも蔵元から全工程でリーファー輸送。フランスではストライキなども頻繁に行われるので、港で一週間ワインが立ち往生することも考えると、一貫して輸送管理しないと意味がないという。
最初は4~5年門前払いだったところも優良生産者に絞り交渉開始。根気強く交渉し、取引に至る。
また、販売後の管理もしっかりさせたいという考えのなか、問屋に下ろすこともせず、直接レストランや酒屋さんに販売。その際、保管設備が整っていないところとは取引しない徹底ぶり。
実際に私がレストランでフィネスワインを見かけた所には、しっかりとした設備があったので、あながち大袈裟な話ではなさそうです。
有限会社ヴァンクゥール
取り扱ってる国:フランス/スペイン/日本
自然派ワイン専門インポーター。当研究所でも何本か消費しておりますが、その実力は折り紙済み。
ヴァンクゥールとは日本語で「心のワイン」。生産者の情熱を心を込めて届けるといった意味が込められており、現地で出会った感激の美味しさをそのまま届けたいそうです。
酒屋の息子であった社長の池谷氏は、父の勧めもあり都内大手のワインショップで働くも、本質を理解できない葛藤がありフランス留学を決意。希望していたブルゴーニュにはすでに席が無かったため、縁あってロワールで住み込みで働くことになります。現地のとあるバーで飲んだ、ラベルに何も貼っていない未知のワインを飲んで、それが自然派の無名生産者だった事をきっかけにヴァンナチュールの世界にはまる。
自然派ワインは常にリスクとの戦いになるが、出来上がったワインには生産者の信念や哲学、生き方が凝縮されていると言うのが池谷氏のこだわりポイント。
以下池谷社長の言葉を本文から引用。
生産者の人生を背負っている覚悟を持って仕事をしている。自分たちの都合で取引を諦めたりしたくないし、毎年買い続けて彼らを支えていくつもり。生産者から託されたワインを美味しく飲んでもらえなかったら自分たちの責任。インポーターの努力不足。それぐらいの気持ちでやっている
おいしいワインはインポーターで選ぶ!より抜粋
有限会社ヌーヴェル・セレクション
取り扱ってる国:フランス/スペイン/オーストラリア/イタリア
ネットで買える場所:うきうきワイン/タカムラワインハウス
URL:https://www.nouvellesselections.com/
意味は新しいセレクション。これまで日本に輸入されていたワインに疑問を持ち、逆のコンセプトでワインをセレクトし紹介したいと立ち上げられた会社。
一般的に好かれているワインは味が濃すぎるので、ヌーヴェルがセレクションしたワインには明確な3つのスタイルがあると言います。
- 1 ピュアで口当たりが繊細な薄旨
- 2 気品に満ちた、濃密な味わいのあるシャンパーニュならびスパークリング
- 3 何か一点において際立った独自性や夢があるワイン。
濃い味付けが全盛期だった頃は試飲会で「オタクのワイン味がしないよ」なんて揶揄されていたのですが、だんだんと時代が追いついてきたという。
有名ではない分、相対的に見ると良心価格設定。有名ドメーヌが高くなってきたから「ブルゴーニュやめよう」と思っている人にちょっと待って、もう少し安くて美味しいものがあるよと主張したいそうです。
そして、そう言い切れるのは、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、アルザスの地域に限っていえば九割の現状を把握している自負があるそうです。
輸送は生産者蔵出しのみ。輸送工程は全部リーファー。開けてがっかりさせたくない。やれることは全部やるスタンス。
ヴィレッジセラーズ株式会社
取り扱ってる国:オセアニア/アメリカ/チリ/アルゼンチン/フランス
URL:http://www.village-cellars.co.jp/
日本で馴染みのなかったオーストラリア、ニュージーランドのパイオニア的インポーター。
幅広く現地で受け入れられているワインをセレクト。
日本人向けではなく、あくまで現地の味を売りたかったと言う。
生産者とは家族ぐるみで非常に長く、そういった付き合いを通じて多くを学んでいる。
オーガニックやビオといった言葉を当たり前として、売り文句にはしていないところに好感がもてます。
オーストラリアワインは熟成しないという偏見と闘うために、自分のところで計画的に数年寝かせるバックビンテージもストロングポイント。結果、10年リリース、20年リリースも好評になり、オーストラリアワインでもちゃんと熟すと言う事を証明したそうです。
株式会社フィラディス
取り扱ってる国:幅広い
ネットで買える場所:本家サイト
今回登場したインポーターの中で、当研究所が一番利用しているワイン会社ですが、あまり深堀しなかったので、新たな発見が多かったです。
まず、当研究所がよく利用するのはワインクラブ30とデイリーワインがメインだったのですが、
熟成してこそワインの魅力。と綴られており、フィラディスの真骨頂は高ワインにあると気づかされます。
熟成ワインは独自の入手経路で探し、その希少性を誇る品揃えもさることながら、例外なくブショネ返品対応なので、かなりの良心的対応。
シャンパーニュ地方への熱いこだわりや、若飲みデイリーワインへの妥協なき探求は、そのままマーケティングの巧さにも繋がっていると感じます。
現地本意ではなく、日本人の味覚に合う旨味成分がのった味を選定。果実の凝縮感、力強さをもっていながらも繊細、しなやかでエレガントなスタイルで結果的に選び抜かれたワインは「フィラディス香」と呼ばれ評価されているそうです。
まとめ
今回紹介されていた全てのインポーターに共通しているのは、
- 輸送の徹底
- 生産者との良質な関係性
- 自分が良いと思ったワインを純粋に届けたい
に集約されます。あえて付け加えるとしたら、トップダウンがしっかりしていて、末端の社員まで理念が伝わっていそう(あくまで印象)なので、そう言った意味で、大手インポーターは対象から除外されたのかもしれません。
今時、粗悪な輸送で、生産者とはいがみ合い、粗悪ワインと思いながらも輸入している業者を探す方が困難ではないでしょうか。。
詰まるところ、優良インポーターかどうか消費者が判断するところも結局は人。
試飲会での振る舞いであったり、SNSであったり、電話対応だったり、メールでの対応だったり、イチ消費者としてはそう言ったところにフォーカスしてしまいます。
結局ワインの味なんて好みの問題ですし、どんなに徹底して品質管理していても、ブショネや劣化ワインなんて避けられない問題ですからね。
まぁ、インポーター取り寄せ品で、ワインが埃まみれだった会社は利用を避けたいですが、研究所としては常にフラットな目線でいろんなインポーターのワインを試していきたいです。